「ドレス・ドクター Dress Doctor 」  〜 エレガンスの復権へのヒント 〜
 
 
アカデミー衣装デザイン賞を8回受賞した衣装デザイナー、イディス・ヘッド
(Edith Head    1897〜1981)は、いつしか「ドレス・ドクター Dress Doctor 」と
呼ばれ、彼女の著書の中にも同名のタイトルがあります。
 
ノミネートは35回で、1940〜70年代のハリウッド映画に於ける彼女の存在は
非常に大きかった様です。
 
私は1930年代から60年代位までの映画が好きなのですが、その時代の内、
彼女が衣装を担当した作品を幾つか挙げると、、、、
 
  (題名)     (主演女優)       (アカデミー衣装賞)
 
・ イヴの総て        ベティ・デイヴィス       受賞  
・ ローマの休日      オードリー・ヘップバーン    受賞
・ 麗しのサブリナ     オードリー・ヘップバーン   受賞 
・ サムソンとデリラ    ビクター・マチュア       受賞  
・ 陽のあたる場所    エリザベス・テーラー      受賞
・ 裏窓           グレース・ケリー
・ めまい          キム・ノヴァク   
・ パリの恋人       オードリー・ヘップバーン
・ 鳥             ティッピィ・ヘドレン
 
などなどです。
 
 
Wikipedia に依ると、
 
「1920年代当時、映画全盛期のハリウッド映画において、女優の衣裳はきらびやかに飾り立てた華美なもの、という考えが主流であった。
しかし彼女は、映画衣裳の世界に初めてシンプルな美しさとファッションセンスを
持ち込んだ」
 
との事ですが、
 
「駆け出しの頃は、セシル・B・デミル制作の映画作品での衣裳の仕事が多く、
当時は『アイデアに困ると、何でも金ピカにしたり鳥の羽を付けるとデミルは喜んだ』」
 
ともあります。
 
セシル・B・デミルは、「サムソンとデリラ」(1949) 、「地上最大のショウ」(1952) 、「十戒」(1956) など、スペクタクル大作を得意とした映画監督です。
 
 
 
彼女が「ドレス・ドクター」と称された所以は、俳優の個性を際立たせる服の
デザイン能力が並外れていた事にあるそうですが、彼女は服飾やデザインの
学校に通った訳でも、どこかの服飾メーカーに勤めていた訳でも無く、
「俳優(人間)と作品の本質を見極める優れた洞察力と、俳優の個性を引き立たせる、
過剰な装飾を排したシンプルで洗練されたデザインを生み出す能力」を
備えていたからこそ、この呼び名を冠されたのでしょう。
 
 
「エリザベス・テーラーは、自分のスタイルにずっとコンプレックスを持っていたが、
イデスがデザインしたドレスで、初めてそれを忘れられたとイデスに感謝した。
女優のスタイルの弱点を見事にフォローする手腕が映画界で広く知られるようになり、
当時の人気女優らは映画出演の契約の際にイデスが衣裳担当であることを知るや、
是非に『撮影終了後にイデスがデザインした衣裳をもらえること』を契約条件に
加える者も多かった」(Wikipedia)
 
 
イディス自身が女性として最も理想としていたのがグレース・ケリーで、彼女の著書
「ドレス・ドクター」によると、
 
「グレース・ケリーは存在そのものが『エレガント』で、彼女のトレード・マークの
白い手袋、滑らかな髪、彼女のメイク・アップ、服には何の衒いもなく、彼女は
人目を引く為や、女優としてドレスを着た事は一度も無い、、、、」
 
と書いています。
 
 
紳士は紳士らしく、淑女は淑女らしく。
 
この時代の文化の大きな流れをリードしていたのは、
そんな「大人たち」で、ティーンエイジャーはそれを模倣して
「リトル・アダルト」となっていた時代の様に感じます。
 
ディナー・ジャケットを着た紳士と、流麗なドレスに身を包んだ
淑女が向かう先はビッグ・バンドの待つナイト・クラブで、
大学生達はその舞台を大学の体育館に変える、、、、。
 
そこにあるのは、確立された「スタイル Style」、「様式 Manner」で、
言い換えると「教科書 Text = ある共通の約束事」が存在していた
かと思います。
 
「T.P.O.」と言う言葉が最近聞かれなくなってしまいましたが、この時代は
細分化された Time(時)・Place(場所)・Occation(場面) に応じた服を
約束事の履行として選び取り、かつ、それを楽しんでいた様に感じます。
 
「T.P.O.」は、1970年代の日本を席捲したトラッド・ファッション・ブランド
「VAN」の石津謙介が作り出した和製英語だそうですが、 基になる考え方
自体は洋の東西、古今問わず存在していたのは間違い無いかと思います。
 
見方を変えると、和装や、結婚式等の儀式向け洋装は別にして、日本には
「時と場所と場面に合わせて洋服を選ぶ」文化がまだまだ行き渡って無かった
からこそ、「T.P.O.」と言う考えが新鮮で、「VAN」の謂わばキャッチ・フレーズ的な
頭文字が、固有名詞から一般名詞へと発展したのでしょう、、、。
 
 
 
「ドレス・ドクター」には様々なOccationに応じた服装が案内されています。
 
「遊園地」
「野球観戦」
「ボウリング」
「朝食時」
「カクテル・パーティー」
「サーカス」
「ドッグ・ショー」
「ゴルフ」
「ガーデン・パーティー」
、、、、、
 
「旅行」の項では、
 
  ・ 船の旅    乗船の時、デッキで、スポーツの為、そして、ディナー用それぞれに
  ・ バスの旅   スポーティなドレスを    
  ・ 飛行機の旅  搭乗の時、長い旅には
  ・ 列車の旅   乗車の時、翌日着なら、長旅に
(「ドレス・ドクター」)
 
面倒と感じるか、、、
楽しみと感じるか、、、、、、、
 
 
T.P.O.を学ぶには映画が一番、、。
 
映画がファッションやライフ・スタイルをリードしていた時代と言っても
良いかと思います。
 
様式だけでなく、当然流行の発信元は映画、、、。
 
 
「17歳のエリザベス・テーラーが『陽のあたる場所』に登場してからその装いは
広まり、ある夜のパーティーは白いヴェルベットのスミレのモチーフを散りばめた
白いチュールのドレスで溢れていた」(「ドレス・ドクター」)
 
 
1960年代位までの映画の雰囲気を幾つかキーワード化して見ると、、
 
・ エレガント  Elegant
・ 洗練された Sophisticated
・ 大人            Adult
・ 成熟     Mature
・ ユーモア      Humor
・ ウィット        Wit
・ エスプリ      Esprit
・ 教養           Intelligence
・ 伝統的   Traditional
・ 本物     Authentic
・ プロフェッショナル Professional
 
 
概ねこんな所でしょうか、、、。
 
 
 
イディス・ヘッドの存在は、正に、そんな時代のひとつの象徴の様に
感じます。
 
彼女に遠く及ばないのは自明ではありますが、私の目指すのは、
 
「エレガントの復権」
 
です。
 
 
紳士は紳士らしく、淑女は淑女らしく、、、、エレガントに、、、、。
 
どんな場面でも、もちろん、エレガントの極地であるボールルーム・ダンスの
競技会でも。

(JDCさんのサイトでの掲載は終了しています)